Life is like a garden

Perfect moments can be had, but not preserved, except in memory.

『バウルの歌を探しに』を読んで

夏に自由が丘のREWINDさんで買った『バウルの歌を探しに』を読了。
ベンガル地方で何百年も歌い継がれる伝統的なバウルの歌を求めて、
バングラデシュを12日間旅した川内有緒さんのノンフィクション作品。

人々の生活や精神に息づくバウルの歌の魅力と深遠さが、川内さんの
簡潔明瞭で小気味よい文章から伝わってきて冒頭からひきつけられた。

なぜバウルは人々を魅了するのか、なぜ何百年も歌い継がれているのか。
川内さんと共に旅をするように読み進めるうちにその謎が明らかになる。
難解で一見わかりにくいバウルの曲の歌詞には、単なる歌という枠を超えた
その地に生きる人の歴史や哲学、人生、理想などすべてがつまっている。

その真髄に触れそうになる頃にバウルの歌を探す旅は終わりを迎える。
だが、同時に、終わりは始まりであるということに気づかされる。
バウルの歌と出会った者はここから本当の人生の旅が始まるのだ。

むせかえるようなアジアの喧騒がこれでもかというほど伝わって来て、
懐かしいような、泣きたいような、なんとも言えない気持ちになった。

20代に旅行したフィリピン、ベトナム、中国(北京、上海、内蒙古自治区)、
台湾、香港、韓国の喧騒を思い出す。色、音、匂い、味、感触がよみがえる。

バングラデシュには行ったことがないが読むうちに思い出した。
そういえば、大学時代、バングラデシュから来た留学生がいた。
学年が違って接点はなかったが、サークルの先輩が仲良しで、
あるとき、先輩から学園祭に出すカレーの仕込みを急遽頼まれて、
友人と先輩と3人で留学生のアパートに手伝いに行ったことがあった。

大量のジャガイモを前に、最初こそしゃべりながら楽しく剥いていたが、
何時間も剥くうち次第に誰も話さなくなりひたすら無になり剥き続けた。
そのとき彼の部屋で延々とかかっていたのがバングラデシュの音楽だった。
もちろん聞くのは初めてだ。ずっと聞いているうちに耳から離れなくなり、
あとから先輩に頼んでカセットテープのコピーを譲ってもらい、自分の
アパートで繰り返し何度も聞いた。なんなら今でも鼻歌で少し歌える。

あれはバウルの歌ではないと思うがなんという曲なのだろうか。
本書でバングラデシュを案内したアラムさんの好きな日本の歌、
北国の春』や『花』のように現地では有名な歌なのだろうか。
もうすっかり忘れて埋もれてしまっていた記憶が掘り起こされる。

この旅をもう少しじっくり味わいたくて『バウルを探して〈完全版〉』
も購入した。写真も楽しみながら再読しようとわくわくしていたら、
これから「もうひとつの〈バウルを探して〉」展が開催されると知る。

なんというタイミング。これは完全版を読んでからぜひ観に行きたい。

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