Life is like a garden

Perfect moments can be had, but not preserved, except in memory.

翻訳家のエッセイ

田口俊樹先生のエッセイ『日々翻訳ざんげ』を購入。
昔から作家や翻訳家、通訳者のエッセイが好きで、
見かけると手に取り、つい次々と買ってしまう。

最近では宮下奈都さんに岸本佐知子さんがとくに好きで、
20代の頃は向田邦子さん、森瑤子さん、安井かずみさん、
桐島洋子さんなどたくさん読んだ。今思えば、20歳前後で
読むより、今の方がずっと彼女たちの年齢に近いのだが、
あの頃は憧れの女性の視点に浸るのが楽しかったのだろう。

そして、翻訳家・通訳者のエッセイもすごく面白い。
とくに米原万里さんのエッセイは、どれだけ時間が
かかろうと、なんとしても読破したいと思っている。

田口先生はウェブ上のインタビュー記事などを読んでいて、
ついくすっと笑ってしまうことが多く、お人柄の滲み出る
トークを目で追うのが楽しみだったが、エッセイはまだ
読んだことがなかったので、これを機に前から読みたいと
思っていた『おやじの細腕まくり』も購入。
どちらから読もうか……と考えるのも楽しい。

田口先生の訳は、『郵便配達は二度ベルを鳴らす 』の冒頭で圧倒される。
アメリカの片田舎の表現が見事で、目を閉じれば乾いた空気と砂ぼこりが
漂っているような気がした。他の訳者と読み比べても断とつに素晴らしく、
とある懇親会でお話しする機会があったときに、ご本人にその旨を伝える
ことができたのはいい思い出。
 
『郵便配達…』の読み比べをしたとき、同じ原書でも訳者が違うとこれほど
までにトーンが変わるのかと驚いた。私には田口先生の訳がしっくりきたが、
そのときはしっくりこなかった他の訳者の方の小説を最近読む機会があり、
そちらは、彼女でなければいけないと思うほど小説の世界観にぴったりで
本当に素晴らしかった。
 
先週視聴したウェブセミナーで出版社の編集者の方が、翻訳者を探す
ときは翻訳者の特性と得意技を考える、この人の文体が原書の世界と
合うかどうか、ということを仰っていたが、それが見事に合致したときに、
その物語が生まれた国のネイティブと違わない読書体験ができるのだろう。

 

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