Life is like a garden

Perfect moments can be had, but not preserved, except in memory.

偶然

ときどき、説明のつかない偶然に震えるときがある。

先日寄稿したエッセイではタイトルに「櫂」を入れた。
「櫂」を入れたのは、茨木のり子さんが川崎洋さんと
創刊した同人誌「櫂」を意識してのことだった。

エッセイを書き終えた後、掲載時に添える写真を...
と言われ、まったく予期していなかったので焦る。
最近撮った写真といえば人物か食べ物ばかりで、
もともと風景の写真はほとんど撮ることがないし、
そもそも海の写真なんて…。家族で海に行ったのは
数えるほどだし、それにしたって随分昔のことだ。
第一、写っているのはほとんど子供ばかりだし…。

困り果てて、ええと最後に海に行ったのは...と考えて
はっとした。慌てて記憶をたどり2年前のフォルダを
検索する。あった。海だけを撮った写真が。1枚だけ。
この偶然をなんと表現したらいいのか考えあぐねた。

その写真は、2年前に私の両親と私の家族4人で
山形県鶴岡市加茂に行ったときに撮ったものだ。
近くにはくらげで有名になった加茂水族館があり、
そこも目的地のひとつだったが、一番の目的は
茨木のり子さんのお墓をお参りすることだった。

加茂水族館のすぐそばの、やや険しい石段を
上りきった先に彼女と夫の眠る浄禅寺はあり、
お墓からは鳥海山と穏やかな加茂の海が見える。

遠戚にあたるのり子さんのことは、折に触れて父から
聞いていて、いつかお墓参りをしたいと思っていた。
ほとんど風景を撮ることのない私が、なぜあのとき
海を撮ったのかはわからない。しかもたった1枚。

この瞬間を、写真は待っていたのかもしれない。

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