柚木麻子さんの『BUTTER』を読み終える。
圧倒的な読後感。映画館でエンドロールが終わっても
しばらく立ち上がれないような余韻が読了後も続く。
実際に起こった首都圏連続不審死事件をヒントに、週刊誌の記者
である里佳と容疑者の梶井真奈子の対話を主軸に物語は展開する。
カジマナに翻弄されながらも彼女から情報を引き出していく里佳。
だが、後半ではその関係が崩れるとともに物語に大きなゆがみが
生じ、同時に主軸は二人の対話などではないことに気づかされる。
本書のテーマは、一言で言うなら「食と女性」だろうか。
食は癒しにもなれば脅しにもなり、力を与えることもできれば、
力を奪うこともできる。食に執着した女と、食に翻弄された女。
食を通して、世間が女性に求める理想像を克明に描くことで、
女性が置かれている理不尽な立場をつまびらかにあぶり出す。
本書には、ほかにも里佳の親友の怜子、カジマナの母、里佳が
付き合っている誠の母、料理教室の先生、教室で仲良くなった
チヅさんなど様々な女性が登場するが、食を通じて彼女たちの
人生が、人柄が、生き様が残酷なまでに容赦なく透けてみえる。
そうして終盤に近づくにつれて、食を通して、もがくように
懸命に生きる女たちの人生が奇妙な近似値を示すようになる。
食に執着したカジマナの行きつく先。
食に翻弄された里佳の行きつく先。
読み進めるほどに、逃げ場がないような息苦しさを感じ、
一方で、五感に訴える鮮やかな料理の描写に舌を巻くが、
さいごは穏やかな気持ちで閉じることができて安堵した。
読み終えたあとは、たまらなくバターが食べたくなる。
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