Life is like a garden

Perfect moments can be had, but not preserved, except in memory.

1年間『草野マサムネのロック大陸漫遊記』を聴き続けていたらスピッツのファンになった話

昨年末から『草野マサムネのロック大陸漫遊記』を毎週聴くようになり、ちょうど一年が経った。

きっかけはアンジーだった。
とある翻訳勉強会でご一緒した方がスピッツのファンで、約一年前のある日彼女が、今週のロック大陸漫遊記はアンジー特集、とTwitterで短く呟いていた。一瞬信じられず、目が留まった。え、アンジー? あのアンジー? まさか。即座に「ロック大陸漫遊記」、「アンジー」で検索すると、公式サイトには、昔大好きで何度も聴いた懐かしいアンジーの曲がずらりと並んでいた。当時はradikoもインストールしておらず、聞き逃した番組が聴ける「タイムフリー」も知らなかったので、残念ながらその回は聴くことができないままで(確認したら2022年11月20日オンエアとある)、その後も日々の忙しさに追われるままになっていた。

番組をきちんと聴いたのはそれから約一ヵ月後のクリスマス当日。娘にリクエストされたクリスマスケーキ用のイチゴタルトを作っていたとき、何か音楽でも流しながら…と思ったときにふとロック大陸漫遊記を思い出し、時間もちょうど良かったのでリアルタイムで視聴。知らないアーティストばかりだったものの、どれも心地よく、唯一名前を聴いたことのあるThe Linda Lindasの紹介のときに、リンダリンダズのメンバーたちがフェスでクロマニヨンズヒロトに会えたという胸熱エピソードをマサムネさんが紹介するころには、「また聴こう」と決めていた。

私にとってスピッツのイメージは、1990年代半ばに登場したポップ系バンドで、割とよく遊びに行っていた渋谷でオザケンとともに頻繁に耳にした記憶があるが、それ以上でもそれ以下でもなかった。そのうちスピッツの曲がドラマやCMでよく流れるようになり、当時はカラオケにいくたびに必ず一度は誰かが入れていたが、もともとロックが好きで自分にはちょっと軽すぎる気がしたのと、渋谷でよく聞いたせいか渋谷系お洒落バンドのイメージが強く、『空も飛べるはず』や『楓』など心に響く曲もあったが、基本的に好みの音楽とは異なるジャンルのバンドだと思って、積極的に聴くこともないままここまで来た。

なので、なおさらアンジーとマサムネさんが最初は結びつかず驚いたが、ロク漫を聴き続けるうちに、この人はとんでもなくコアなロックファンだということがわかってきた。もちろんミュージシャンだけに、ロック以外のさまざまなジャンルの音楽にも詳しいことは驚くことではないし、その豊富な知識の鱗片は話の端々から伝わってくるのだが、とりわけロックへの造詣が深いうえ、ロックに並々ならぬ思い入れと愛があることが番組から感じ取れた。

なんといってもアンジー特集である。アンジーというバンドは、かつて一部で非常に人気を博したバンドだが、ロック全体からすれば、カステラや筋肉少女帯ほどではではないにせよ、ややマニアックな部類に入り、同時期に活躍した他のバンドを思い返してみても、たとえばレッド・ウォーリアーズやZIGGY、SALLYなどのほうが王道というか、特集を組むにしても一般的に受け入れられやすいのではないか…などと思いたくなるが、あえてアンジーを持ってきたところに、この人(マサムネさん)は只者ではないと感じ、そこから徐々にスピッツのことが気になるようになった。

ロク漫を聴けば聴くほど、マサムネさんの好きなジャンルの音楽とスピッツの音楽がかけ離れている気がして、その謎も気になっていたが、あるとき何かで、自分たちのやりたい音楽よりも多くの人に届く音楽を演奏すると決めた、といった趣旨の言葉を目にしたほか、スピッツの曲のテーマの根幹はSEXと死であるらしいことなどを知り、ようやく府に落ちた気がした。

私がロックを聴くようになったのは中学に入ってからで、最初はとくに積極的に聴いていたわけでもなかった。だが、ロック大陸に上陸した日ははっきりと覚えている。1986年10月20日だ。

その日は、ザ・ストリート・スライダーズ、ラフィンノーズ、エコーズ、アップビートの4バンドによる「ROCK CITY SPECIAL ‘86」という東北を回るロックツアーが地元山形で開催された日で、当時14歳だった私は友達に誘われるままチケットを購入した。その数カ月前に友達が「初めてジャケ買いした」といって貸してくれたのがアップビートのデビューアルバムで、エコーズもその友達から教わって数カ月前に知ったばかりだった。アップビートの出番が終わったときには大満足で、もう終わったくらいの気持ちになっていた。アップビートの次に出てきたバンドは、チケットに書かれていた4バンドのどれでもない、知らないバンドだった。

そもそも会場は50人いたかどうかという程度で、観客は極端に少なかったが、それでも各バンドが登場するたびに歓声が上がり、それなりに盛り上がっていた。けれども、そのバンドが出てきたときはしんと静まり返っていて、ああ自分だけでなくみんな知らないんだ、と思ったのを覚えている。だが、坊主頭のボーカルがスタンドマイクのまえに立ち、バンド紹介をして歌い出したとたん、いぶかしげに見ていた観客がその歌声に、そのビートに一気にのみこまれていった。それがTHE BLUE HEARTSとの出会いだった。

無名のバンドだと思っていたが、東京のライブハウスでは人気急上昇中のバンドだということをあとで知る。その日を境にパンクロックにはまり、とくにラフィンは野音の事故後初のライブとなった田沢湖を皮切りに、地元山形はもちろんのこと、東北各地のロックフェスだけでなく横国大の学園祭等にも足を運んだ。その後、高2の夏にアメリカのオレゴン州に留学するまで、パンクに留まらず、さまざまなバンドやミュージシャンを聴き、ライブに足を運んだ。単独ではケントリ、ビデオ・スターリン、レッズ、スライダーズ、レピッシュ、モッズ、バクチク、デルジベ等々…。ロックフェスでは、タイマーズや有頂天、ローザ・ルクセンブルグ等に夢中になった。ラフィンは地元では必ず入待ち出待ちをしたほか、ビデオ・スターリンを生で聴きたくて宮城県の大島に足を運ぶなどした。パンク界の生きるレジェンドと評されたミチロウと写る15歳のときの写真は、いまも実家にある。

一年の留学から帰国後は、高校入学後まったく(留学時代を除き)勉強していなかったので(趣味でFENを聴いたり、ASAHI WEEKLYを読んだり、複数の海外のペンパルに手紙を書いたりはしていた)、都会に出たい一心で必死に勉強した(なのになぜか地元以上にのどかな静岡の大学に進学)。その後は、あの15のときほど音楽にのめりこむこともなく、そのうち社会人になり、結婚し…と、気づいたらロックから、というより音楽からすっかり遠ざかっていた。

最初に戻るきっかけをつくってくれたのは、エレファントカシマシだった。2017年の紅白に彼らが出場したときには心底驚いた。まだ活動していたんだ、と。実際には、私が音楽から離れてひどく疎くなっていただけで、彼らはずっと精力的に活動を続けていたことを知った。エレカシはデビューしたころに各ロック雑誌に盛大に取り上げられていたので、その存在はよく知っていた。

ただ15の私にはあまりピンとこなかったのと、ボーカルが客に怒号を放つことなどを音楽雑誌の記事で読み、文学青年崩れのような風貌(宮本さんごめんなさい)も相まって苦手なイメージがつきまとった。当時、ロックフェスでもよく聴いていたはずだが、彼らの曲をきちんと聴くようになったのは90年代半ば頃からで、当時買ったアルバム『ココロに花を』はよく聴いたが、その後はまた遠ざかっていた。また聴くようになったのは宮本さんがソロ活動を始めた数年前からで、テレビでもよく見かけるようになり、それから徐々にまた聴くようになった。

そうしてまた少しずつ音楽が日常に入り込むようになってきた去年末、ロク漫と出会った。

ロク漫との出会いは、例えるなら、音楽の趣味がめちゃめちゃ合う昔の友達と久しぶりに再会したようなものだった。ああこの人ならきっと、私がケントリ、現ちゃん、どんとと言うだけで、それがKENZI&THE TRIPS、レピッシュの現ちゃん、ローザまたはボ・ガンボスのどんとのことだとすぐに脳内で変換して理解してくれる。現ちゃんが、そしてどんとがこの世を去ったとき、この人もおそらく似たような面持ちで死亡記事を見つめていたのではないか。そんなふうに感じた(実際にどうかはともかくとして)。この人ならきっと私と同じく、町田康辻仁成も、作家からではなく、INUやエコーズのボーカルである別名(or別の読み方)から入っているはずだ。なにより、ロク漫でボ・ガンボスの曲をかけてくれたときには泣きそうになった。令和のいま、どんとの歌声をラジオで聴けるなんて、と胸がいっぱいになった。

そんなふうに懐かしい再会を果たした友達が、「あ、そういえばあいつ覚えてる? いまもすっげー元気でさ」とか、「最近ちょっと面白いやつと知り合ったんだよね」とか言って話し出す内容が、私にとってはロク漫で流れる曲の数々で、しかもマサムネさんとは好きな系統が似ているようで何を聴いてもほぼ心地よく、このような耳福な番組と出会えたことがすごく嬉しかった。

それでもまだ最初は、「スピッツファンでもないのに笑」と思いながら毎週楽しみに聴いていた。ロク漫では、毎回最初にスピッツの曲が流れ、ラストで『醒めない』という曲が流れる。『醒めない』はちょろっと流れて終わる週もあるが、がっつり流れる週もあり、毎週聴いているうちに段々いい曲だな、と気になるようになった。そこから少しずつスピッツの曲が気になるようになり、ある日、図書館で3枚組のベストアルバムを見つけ、借りて聴くようになってからは気になる曲がどんどん増えていくように。

それでも、まだファンというわけでは…などと思っていたのが、いつしかジョギングのときに欠かさず聴くようになり、11月のハーフマラソンでも聴きながら走っているうちに、家でも口ずさむようになってしまい、「これはもう好きかもしれない」と観念。横浜のJACK&BETTYに『優しいスピッツ』を観に行くまでになった。長年のファンからすれば、その程度ではファンとは言えないと思われるかもわからない。だが、気づいたらスピッツの魅力をじわじわと感じ取れるようになっていた。

ちなみに、現時点でのスピッツの好きな曲ベスト5は、『醒めない』、『春の歌』、『さわって・変わって』、『裸のままで』、『楓』で、『醒めない』はいま、目覚まし代わりになっている。すっかり長くなってしまったが、これからもロク漫を楽しみに聴きたいし、スピッツの曲もまだまだ知らない曲だらけなので、これからゆっくり知っていけたらいいなと思っている。

草野マサムネのロック大陸漫遊記
12/24
【2023年 漏れた曲で漫遊記】
M5 : Gloria / The Shadows Of Knight
M7 : The Jokes On Me / Power Of Dreams

☆祝☆ロック大陸漫遊記を聴き始めて丸1年!