とりとめもない記憶だけれど、ふと思い出したことがある。
あれは大学を卒業して5、6年経った頃、岡山の友達の家に
友人4、5人で遊びに行ったときのことだ。大学卒業後、
地元の岡山に戻った友人に、あちこちを案内してもらい、
途中、大原美術館にも立ち寄った。入ってみて驚いたのは
飾られている絵がどれも私の好みの絵ばかりだったこと。
鑑賞し終わって友達が案内してくれたのがエル・グレコと
というカフェで、そこで突然ある記憶がよみがえった。
祖父は現役の頃、転勤で全国のあちこちに住んでいて、
岡山にも一時期暮らしていたことがあった。そのとき、
祖母のお気に入りの喫茶店があって、祖父がよく、
「おばあちゃんはグレコのマダムと仲が良かったんだ」
といっていた。グレコの店内で撮った祖母の写真を
祖父はずっとリビングに飾っていたので、店の名前は
覚えていたが、岡山に行くときにはすっかり忘れていた。
それが店の前にきて、このカフェのことだとピンときた。
シックで落ち着いた店内で楽しくお茶をして出るとき
入れ違いで数人の客が店に入ってきた。店を出てから、
友人が「いまの、俵万智さんだったね」といったのだ。
えー!!たしかに言われてみれば、あの横顔は…
こんなところで会えるなんてと驚き話はそこで終わったが、
当時は祖母と俵万智さんが短歌つながりであることには
思い至らず、今朝なぜか急にその記憶がよみがえってきた。
偶然といえばそれまでだが、あれは本当に偶然だったのか。
短歌つながりといっても、歌人であったという共通点があるだけで、
祖母は『サラダ記念日』が発行される1年前にこの世を去っている
ので、おそらく俵万智さんのことも、彼女の短歌も知らない。